多文化共生へのJICAの提案
2022年2月3日、JICA緒方貞子平和開発研究所において、2030/40年外国人との共生社会実現に向けて~将来の外国人の受け入れ関するシミュレーションと共生の在り方(課題と提言)のシンポジウムが開かれました。
JICAは多文化共生(2030/2040に向けた取り組み)調査・研究会からの中間報告を受けて、4つの課題を挙げています。
- 日本の経済成長のために外国人労働力受入の必要性(2040年に674万人必要)
- アジアの主要送り出し国において経済成長・少子化の進展による労働者不足・獲得競争激化
- 日本の地方の人手不足は深刻であり、外国人抜きでは地方の社会・経済が成り立たない現状。
- 国際社会の「ビジネスと人権」へ関心が高まり、日本も取組が必要。
そして、目指すべき方向性は、日本人も外国人も夢を持って、安心して活躍できる豊かな共生社会の実現―国際協力を通じた取組による「選ばれる日本」と「開かれた日本へ」として。JICAが長年培った経験・途上国におけるネットワークや、開発途上国での活動を経験することにより育成された人材を活用して、貢献すべき点を整理しています。
アジアの主要送り出し国と想定している東南アジアは、インフラ整備をはじめとする経済成長支援型援助とそれに呼応する形で日本から進出した民間投資により、国ごとに発展段階の違いはあれ、目覚ましい経済成長を遂げました。
また、一部では人口ボーナス期をすでに終了した国もありますが、フィリピンのように2050年まで人口ボーナスを謳歌する国もあります。開発援助だけでなく、技術や文化、アニメも含め、日本への信頼や憧れも強い地域であり、日本に対するプル要素も依然として大きいと思います。JICAが提案していることを一つ一つ丁寧に進め、2040年674万人必要と推計する外国人労働者の確保が可能となり、日本と途上国で共に発展する絵姿が描くことが、国益にかなった将来の開発援助の姿かもしれません。
他方、総務省によれば、多文化共生を「国籍や民族など異なる人々が、お互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成要員として共に生きること」としており、ともすれば、料理や祭り、衣服などの外形的な違いを認め合う事にとどまっていると感じてしまいます。日本において、権利取得や公的制度へのアクセスを必要とする多文化主義的な政策はまだ進んでおりませんし、国レベルの議論はとても機微な事象だと思います。
そこで、もっと外国人一人一人について考えてみることはどうでしょうか。東京工業大学教授の伊藤亜紗氏は著書「手の倫理」の中で、マサチューセッツ工科大学(MIT)の廊下で見たチラシをヒントにこう書いています。「チラシの左半分には、学生らしき黒人女性二人が写っており、そして右半分には大きな文字でこう書かれていました。
「Be your whole self」
それは理工系の学生に向けて副専攻で人文社会系のコースを履修する案内のチラシでした。Be your whole self,「ありのままのあなたで」と訳したくなりますが、なるほどと思ったのは、「まるごとのあなた whole self」という表現でした。大学生で、遺伝子工学を専攻していて、アフリカ系アメリカ人で、南部出身で、女性で興味があって、、例えばそんな複数の側面を持つあなたを、隠さずに全部出していい」(中略)「アフリカ系アメリカ人として、あるいは女性として、遺伝子工学を専攻することが強みなのだ」と。
その人と関わることで見えてくるものがあるはずです。逆に関わらないと見えてこないのかもしれません。一人のなかの全て(Whole self)の多様性を見ることが、一人の中にある「無限」を見ることにつながるのではないでしょうか。学び合うことは、まずは外国人一人のなかの全て(Whole self)の多様性を発見することから始まるのかもしれません。そこで、初めて日本人と外国人との間で学び合える価値が生まれる多文化共生、多文化共創の実現ができるのではないでしょうか。
JICAの元理事長の緒方さんも回顧録でこう語っています。「日本社会が自身を取り戻して、再び前進するためには、世界の多様な文化や価値観、政治や社会に目を開いて、そこから何かを学びとること、それとともに、国内でも多様性を涵養していくことが不可欠です」
緒方さんの下で働いていた時、どうしたら、国内でも多様性を涵養できるか、緒方さんに尋ねる機会がありました。「まずは関心を持つことです。そして質問することです。できれば一緒に働くともっとよくわかります」と明快に答えていただきました。開発援助を通じて一緒に働いたからこそ信頼を培うことができるはず、そこが現場主義のJICAの強みです。外国人の共生に向けたJICAの新しい取り組みの推進に向けreapleとしてもその一翼を担いたい。私たちができることは、一人一人の留学生や外国人エンジニアに真摯に話を聞き、向かい合い、日本での就業の機会を探していくことです。JICAの現役時代には気が付かなったperson to personを大切にしていこうと思います。